ある医学部3浪生の話⑤〜芸は身を助く?〜
宿題をやって怒られたという出来事の後、この生徒さんの身につけようという姿勢が強くなってきました。文法は、この理解なくして英語の理解はないといえる重要項目である「関係代名詞」に入りました。とにかく "that" とか "which" とか書いておけば当たる……というやり方で乗り切って(?)きていましたので、再び中学の教材を用いて最初から説明します。「関係代名詞」は基本を理解していればよほどの難問以外は確信を持って正しく読んだり解答したりできる実はお得な項目なのです。ただし身につけるためには一定の練習が必要です。元になっている2つの文を復元する訓練をするのですが、初めのうちは難しくて時間がかかります。宿題をやって先週よりも良くなったことを褒めると、
「でも先生?」と不思議そうなお顔。「試験中は時間がないのに、一つの文にこんなに時間をかけていたら終わらないと思うんですけど……。」
うん、うん、なるほど。「①時間をかけて練習する→②だんだん速くできるようになる→③瞬時にできるようになる」ものなのですが、まだ①の段階にいるわけですから不思議に思うのも無理はありません。実際に、「こんなに時間をかけていたら終わらない→だからこの練習は無駄」という誤った判断をして関係代名詞を身につけずに終わる人も多いのです。疑問を素直に口に出してくれた時は、その壁を越えてもらうチャンスです。
実はこの生徒さん、それまでの雑談から知ったのですが、ヴァイオリンを本格的に習ってきて、音大に進むことを考えたことがあるほどなのです。私も下手ながらヴァイオリンを趣味にしています。テレビなどでヴァイオリニストが左手の位置を自在に動かしながらあらゆる音を出している場面を見たことがあると思いますが、どの位置に動かすかの目印は楽器にはついておらず、感覚で覚えるのです。当然はじめは位置がずれて音程が狂います。日々練習を繰り返した末に、瞬時に正しい位置に手が行くようになるのです。
「小さい頃、初めて第3ポジション(基本の位置移動)を習った時のこと覚えてる? こんなの無理って思わなかった?」
大好きなヴァイオリンの話になって、その生徒さんは目を輝かせて練習の仕方について詳しく話してくれました。
「で、そうやってたくさん練習して、今、第3ポジションどう? 考えなくてもパッと手が行くでしょう?」
ア、なんだ、そういうことか! という表情に変わりました。
まずは素直に言われたことをやってみて、そこで浮かんできた疑問をまた素直にぶつけてみて、その結果、勉強以外での努力で得たものを英語学習につなげられた瞬間でした。