夏休みの宿題『こころ』

 英語ばかりでなく国語にも、共通テストへの改悪や、カリキュラムの謎の改悪(論理国語だとか、文学国語だとか?)が決まるなど、怒りを通り越して呆れるレベルです。(センター試験の国語や、今までの現代文の授業に問題がなかったという意味では全くありません。)一方で、高校教科書に森鴎外の『舞姫』や夏目漱石の『こころ』が載っているのは30年前と同じです。

 夏休みに『こころ』全文を読んでおくようにという宿題を出された高校生も多いのではないでしょうか。『舞姫』はかろうじて全文を教科書に掲載できる長さですが、『こころ』は一作で文庫本1冊になる長さなので、夏休みに読ませて9月に授業で取り上げる先生が多いのです。

 夏休みの課題図書というと、あの読書感想文という曲者の記憶と結びついて良いイメージがなかったのですが、このところ考えを変えつつあります。

なんでもいいから読めばいいのか? 違うかも。

 以前は、本でも漫画でも、読みたいものをなんでもいいから読んでほしいと思っていました。その結果として体験も豊かになり、読解力の向上にもつながるだろうと楽観的に考えていたのです。しかし、実際に読書好きだという中高生に、好きな本やその時読んでいる本を教えてもらうと、学年に比べてかなり低年齢向けの本で、かつそのまま読書のレベルや幅が変わらない人がいるのです。(それでも読まないよりはずっと良いですが。)

 宿題だからという名目で、普段の自分だったら決して手を伸ばさないようなジャンルや作家の本を読むこと、かつそのレベルの本を楽しめる精神的成長や読解力を期待されているということを理解することは、変化への大きなきっかけになり得るのではないでしょうか。

 『こころ』はかなり暗くて重いので個人的には真夏の日差しに合わない気はするのですが、『舞姫』のように擬古文調でもないですし、読みやすいです。何年か前の高校生(理系・文学に興味なし)も『こころ』の主人公があれこれ考えては先延ばしにしてもっと窮地に陥って後悔し……という巧みに描かれた心理に、「うわ、わかる。こういうことある。こんなの文章にできるんだ」というような感想を漏らしていました。が、読めばあなたもそう思うこと請け合いです。

 どうぞ新しい読書体験を。