ある医学部3浪生の話④〜宿題やったら怒られた〜
ほとんどの方と同様この生徒さんも文法が課題で、中学の教材を使って基礎からやり直しました。中2くらいで学習したはずのことでもすっぽり、またはまだらに抜けています。ある週は「比較」でした。全体を整理した上で、まだらに抜けている部分を解説・演習し、中学の問題集から「比較」の章全体を宿題として渡しました。
次の週の初めに、宿題のプリントを鞄から出しながら、その生徒さんはちょっと誇らしげに言いました。
「今週は大学が忙しくて、今朝もまだプリントができていなかったんですけど、今、電車の中でたまたま座れたので大急ぎで全部埋めてきました!」
あっ、それはダメ〜! 私は文字通り頭を抱えましたが、この機を逃してはならないと、真剣にそして必死にお説教をしました。
まず何のための宿題、そして勉強なのか。期日までに空欄を埋めることに意味があるのではなく、先週まで自分の知らなかった知識を自分のものにするためです。そして数ヶ月後までに合格に足る力を自分につけるためです。身につけるべき内容を意識することもなく、電車の中では音読(綴りと音の関係を理解するために課題にしていました)もできず、すでに知っていることだけを走り書きするようなやり方は、そもそも勉強ではありません。疲れて乗った電車で座れたなら寝ていた方がよほど有意義でした。時間と体力の無駄です。
そして実際に答え合わせをしてみると、先週まだらに抜けていた部分の設問だけが、選んだように全てバツだったのです。それをこそ身につけるために出した宿題なのに。授業も無駄にし、良質の問題集も無駄遣いしたのです。まさに「百害あって一利なし」です。
つまりこの生徒さんの「真面目さ」は、小中学生の頃に大人に言われた通りに振る舞って褒められるような優等生的真面目さであって、自分にとって最善のことを自分で考えて実行するという発想はなかったのです。「よい子」だったこの生徒さんには、頑張ってか宿題を終わらせたのに怒られたという体験は初めてだったかもしれません。初めはびっくりして固まって、それから神妙に聴いていましたが、内心で感心したのはふてくされた様子やいじけた様子が全く見えなかったことです。
その週は何とか似たような教材を探してもう一度「比較」を宿題にしました。一週間後、今度はほぼ完璧な解答を持ってきて、無事に次の文法項目へと進みました。