夏に東大過去問10年分? 不要です!!

予備校に利用されるのではなく、利用する

 某大手映像予備校では東大過去問10年だの、25年(!)だのの講座を用意して、チューターが学生一人一人に「熱心に受講を勧める」のだそうです。それも、自分のペースで受講できるのではなく、なぜか最新10年分を8月末までに全て解かなければならないという中身です。学生の中には、チューターと一対一で2時間渡り合って何とか受講を拒否した高校3年生もいるそうです。その方はご自分に今何が必要かを理解していて、不要なものをガンガン勧めてくる大人を退けたわけで、実に骨があり、頼もしい限りです。しかし、ほとんどの学生は、受講せよという圧力が強く不安を煽られれば、受講しないという選択をするのは難しいでしょう。

「悪質だなぁ」というのが私の率直な感想です。営業ノルマのようなものがあるのでしょうが、貴重な受験生の時間を2時間も自分のノルマ達成のために奪うとは……。それだけノルマが厳しいのでしょう。

 そもそもそんなに早い時期に、10年分も、しかも、より貴重な最新の過去問を解く必要はありません。現時点で十分に過去問に対応できる実力をすでに持っているごくごく一部の人はやったら良いでしょう。でも、それほどのレベルの人は、自分で赤本の解説が理解できるはずなので、英作文にしても、和訳や要約にしても、あまり質の良くなさそうな添削をお金を払って受ける必要は、やはりなさそうです。

 多くの受験生、特に学校行事や定期試験もこなさなければならない現役生は、まだまだ基礎に抜けがあったり、苦手科目や苦手単元が残っているのが普通です。部活動を熱心にやっていた人などは、ようやく勉強を始めてリズムができてきたところという段階かも知れません。今から夏休み明けにかけて、少し余裕のあるこの時期こそ、抜けや苦手を根気よく潰し、分厚い実力をつけていくための地道な演習を続けるべきです。過去問を解く実力がついていないのに、過去問を10年分も解くのは、単なる時間と労力と過去問の無駄遣いです。

 少子化で受験人口が減少する中で、多くの予備校や塾が生き残りをかけて生徒を集めています。「面倒見が良い」という美名のもとで生徒を囲い込もうとしたり、「過去問は20年分やらないとダメ!」などと脅しのような文句で少しでも多くの授業をとらせようとします。営利団体なのですから当然の営業努力と見ることもできるでしょうが、私はこういうやり方は大嫌いです。巨大な組織と、未成年一人が向き合う構造がフェアではありません。

 予備校にとっては、受験は毎年繰り返されるものであり、一人一人の受験生は収入源の一つに過ぎません。一方、受験生にとって受験は人生の重大事なのですから、自分の必要・不必要の判断を一歩も譲らないことです。迷うでしょうが、その判断は自分で下すのです。予備校に利用されるのではなく、自分が目的達成のために予備校を自分のやり方で利用するのです。