受験をめぐる言説に振り回されない

「入試期間中も伸びる」……可能性があります。

 塾や予備校で、受験生を励まそうとしてだと思いますが、よく言われることがあります。例えば「現役生は最後まで伸びる」。これについては以前にも記事にしているので読んでいただきたいのですが(「浪人生だって最後まで伸びる!」)、似たものに「入試期間中も伸びる」というものがあります。「ああ、そうなんだ。じゃあ最後まで諦めずに頑張ろう!」と全ての受験生が思ってくれれば問題はないのですが、一部にはかえって安心して必死の努力をしなくなる人もいます。「伸びる」というのは「伸びる可能性がある」ということであって、当然止まる人も下がる人もいるのです。「自動的に上がる」という意味ではありません。

 数年前、ある浪人生が、「浪人したら理科は(成績が)上がるから……」という口調に気になるところがあり、「ん? ちょっと待って」と詳しく話をきてみたら、やはり「浪人生は理社の成績が(現役生より)高い」というのを、「自動的に」成績が上がると思っていたのですね。😅 もちろんその方にはその場で説明をしました。現役時には学校にも時間を取られて手が回らなかった理科や社会を(中心に)、浪人したからにはきちんと時間をかけて頑張った結果、まだ間に合っていない現役生よりも(特に春夏のうちは)高い成績が出るということですよ、と。「あ、そっか!」なんて納得して、その後は頑張って成果を出したのでよかったですが、「自動的」という勘違いを生むくらいなら伝えないほうがマシというケースもあるのかもしれません。

 私が中学の途中までを教えていたある生徒さんは、その後、一浪して見事に医学部に合格したのですが、受験を振り返って、「自分は試験が始まった時点での実力のまま止まってしまった気がする。もっと上位の大学にも複数合格した子たちは、試験中もどんどん力をつけていった。その違いが大きいと感じた」と話してくれました。実際にどうだったかはわかりませんし、私はといえばその冷静な振り返り力に成長を感じてうるうるしていたのですが、それはさておき、ご本人としてはそういう実感があったということなのだと思います。もちろん、止まろうと思って止まったのではないのです。

 さまざまな言説がいやでも耳に入ってくるのであれば、都合の良いところだけ話半分に受け取って、自分は自分で正しい努力を続けていくべきですね。