子供がつぶれた医学部プレッシャー①

親の「圧」強め、子供の「跳ね返し力」弱めの場合

 親や一族が医師で病院経営もされている方の中には子供が複数人いても全員医師にと期待(決定?)している方もいます。そのように親からのプレッシャーが強い場合は、一人っ子である場合はもちろんのこと、きょうだいがいても、子供にとってはかなり辛い状況になります。

 まだ医師家系だと知らなかった初回授業時に「どうしてお医者さんになりたいの?」と聞いたら、「まあ……運命というか……」ととろんとした目を合わせずに答えた生徒さんがいました。「運命」という表現はいくらなんでも大袈裟だなと当時しばらくは思っていたのですが、今では確かにご本人にとっては運命と感じられるほどの圧倒的な力なのだろうと納得しています。

 なにしろ物心ついた時にはすでにレールの上に乗せられていて、向き不向きや意志は考慮されず、寄り道は許されず、脱線は決して起こらないのです。「圧」は無言で加えられます。ある人は小学校低学年のクリスマスプレゼント(サンタさんは親であると知らされていました)が欲しくもない顕微鏡だったと苦笑いしていました。またある人は、幼い頃にお祖父さんが ”遊びに” 連れて行ってくれる場所は必ず所有の老人施設だったと言いました。顕微鏡がダメだとか、老人施設がいけないと言いたいのでは全くありません。ただ早いうちから科学や医療に興味を持たせようという大人の目論みは完全にはずれ、子供にはただ「将来は医者になれ」という無言の強大な圧力だけがことあるごとに伝わるのです。

 いっそ言葉ではっきり言ってくれれば、子供の側も成長に応じた反応ができるかもしれないのに、無言の圧力は、もともと従順で素直な子供から強さを奪い、自発的な興味や好奇心の芽を摘みます。