ある医学部3浪生の話⑥〜最後の日〜

 1月下旬、私大医学部入試が始まりました。何しろ得意と思っていた英語でも初歩からのやり直しでしたから、苦手の数学はさらに大変だったようで、過去問は1〜3年分程度しか終わらず、”準備万端” とは言い難い状況でした。

 比較的入りやすいと思われる大学を、試験日も勘案して数校受けたなかで、1校だけ、一次合格をもらいました。3浪目にして初めての、そして最後の二次試験を受け、終わるや否や、通っている大学の期末試験の嵐。何しろ歯学部の単位は落とさないというご両親との約束があります。二次試験の結果は、補欠

 梅が咲き、暖かくなってきても、まだ補欠の繰り上がりはきません。3月下旬の一日一日がジリジリと過ぎていきます。このまま繰り上がりがなければこの生徒さんの人生はどういうものになるだろうかと考えました。医師になったごきょうだいと自分を比較して、大きな挫折感を抱え続けるでしょうか。それとも、これだけ頑張ったのだからと吹っ切れる日が来るでしょうか。少しくらい数学が苦手でもよいお医者さんになろうと努力するに違いないこの人をとってほしい……。

 3月最後の日が暮れました。夜、メールの着信がありました。
「今日の午後、補欠だった〇〇大学から連絡をいただき、〇〇大学に通えることになりました。(以下略)」
 涙涙涙……。おそらく最後の一人だったと思います。こうしてこの生徒さんの医学部受験は終わりました。

 この方には応援してくれるご両親がいて、とても恵まれた環境でした。だから合格したのでしょうか? あと一年早く個別指導に切り替えていたら二浪目で合格していたのでしょうか? 私には、さまざまな歯車が噛み合うまでに3年という時間が必要だったのだと感じられます。ぎりぎりの状況に追い込まれ、それでも挑戦の道を選び、”ど根性” と形容したくなるような粘り強さで進み、素直に人の話を受け入れ、自分の過去の経験を糧にして自らを成長させた、その結果の合格だったと思います。