一対一なら個別指導……ではない

 「個別」指導ですから、講師一人に生徒一人というのは当たり前ですが、それは前提に過ぎません。質問がしやすくわかるまで教えてもらえるとか、曜日・時間を講師と相談して比較的自由に決められるとかいうのも、もちろん大きなメリットではありますが、やはりオマケ程度に過ぎません。

 私が常に心がけ実行している個別指導は、生徒の状況や性格に合わせて、カリキュラムも授業内容も教え方も完全にカスタマイズした指導です。特に、意外な弱点(または強み)を発見することはとても重要です。例えば長文などを一緒に読みながら、時に生徒の思考回路に入り込むようにして弱点やクセを探っていきます。

 例えばかつての生徒さんで、正しい知識を正しく使って考えているのに、いざ解答する段になって裏の裏を読んだような妙な答えをしてしまう人がいました。それはその生徒さんの謙虚さというか、「私の答えなんてあっているはずがない」という自信のなさの表れでもあり、「大学受験の問題だから難しいに決まっている」という思い込みも加わった結果でした。

 こういう生徒さんに、その設問を解くのに必要な知識や考え方をそこでもう一度教えることには意味がありません。すでに十分知っているのです。その先の、いざ答えを書くときの不安や思い込みの方を解消していくことに力を注ぐわけです。この方はご自分の弱点を認識できて、克服に努め、その年のうちに医学部に合格なさいました。

 講師の中にはどの生徒に対しても同じ教材を同じペースで進めていく人もいるようで驚きますが、それでは集団授業を受けているのと変わりません。私は場合によっては数時間かけて大きな書店で一人のために教材選びをします。個別指導塾は巷にあふれていますが、本当の意味での個別指導をしている塾や講師を選んでほしいものです。